コドモコワイ

 道を歩いていて目の前に大蛇が現れたら、たいていの人は怖がるでしょう。
毒の有無に関係なく、咬まれるかもしれない、窒息させられるかもしれないと恐怖します。
これは大蛇の行動が予想も予測もできないからです。
目をこっちを見ているのに、怒っているのか怯えているのか、殺意があるのかさえ分かりません。
なので僕なら回れ右をします。一か八かの賭けに出て命を落とすかもしれないリスクは負いたくはありません。
では、目の前に着ぐるみを着た人が現れたらどうでしょう。
遊園地にあるようなものでも、サーカスにあるようなものでも構いません。
僕なら逃げます。着ぐるみからは表情も感情も読み取れないし、したがい初動を予見することもできませんから。
中の人が聞く者を安心させるような声色で喋ってくれれば、いくらかは警戒心も解けましょうが、
完全に無言だとしたら殺意満々の切り裂きジャックよりも恐ろしい存在です。

 最近、それにも比肩する恐ろしいものがあります。
コドモです。
卑属の意味ではなく、20歳未満(本記事では小学生~高校生あたりとします)のほうです。
未成年の犯罪については昔から報道されていて、時の経過とともに残忍性残虐性が際立ってきましたが、
そこまで至らずとも刃傷沙汰も含めて恐れの対象になりつつあります。
近所の公園で地域猫のお世話をしています。
命を落とした子もいますが現在は9匹ほど。
白3匹、トラ3匹、黒3匹なので個々の識別が難しいのです。
せめてもうちょっと模様がバラけてくれれば……と思うのですが仕方ありません。
(なお、全てイヤーカットが施されています)
さて、活動の場が公園であるので彼らのためだけにスペースを設けるわけにはいきません。
なので日が沈み、利用者がまばらになった頃を見計らい一角に猫ちゃんらを集め、食事させることになります。
地域猫”という言葉は多少は認知されているように感じますが、その活動についてはやはり白眼視されることも多く、
倉庫の陰などでこっそり……ということになります。
衆目には無責任な餌やり、に映るようです。
実際には不妊去勢手術を受けさせて不幸な子が増えるのを抑止し、毎日決まった時間に食事をさせることで飢えを忘れさせ
ゴミ箱等を荒さないようにする効果を狙っています。
また怪我や病気があれば可能であれば捕獲して病院へ、不可能ならば患部を撮影して間接的に診察をしてもらう等もしています。
……という活動内容は置いておいて……。
食事をさせるのはたいていが18時過ぎです。
家の用事もあり、陽が高いうちは公園利用者も多いためです。
ところが最近、困ったことが起こりました。
小学校高学年から中学1年生くらいの子どもがいるのです。
平均して5名。ドッヂボールだかバレーボールだか、そんな感じでボール遊びをしています。
当該公園は道路に面していることもあり終日、ボール遊びと打ち上げ花火の使用が禁じられています。
その子らはそんな注意事項等が記された看板などお構いなしに、けっこうな奇声を発しながら戯れています。
それだけでもまあ迷惑なことだとは思うのですが(住宅密集地のため)、さらに困ったことには明らかに
こちらに向けて故意にボールを投げつけてくることがあるのです。
ボールが飛んで来れば猫たちは驚いて逃げます。飛びあがって食器をひっくり返して走り去ります。
ボールが僕に当たったこともあります。
そして彼らはそれを見て笑っているのです。
これは実はとても怖いことなのです。
というのもこういった原因で猫が慌てて逃げたとき、ちょうど走ってきた自動車にぶつかって亡くなる例があります。
さて、こういう時はどうするのが正しいのでしょうか。
おそらく模範的な解答は
『注意する』
ということになりましょう。
しかし僕にはできないし、する気も起きませんでした。
相手が言葉も覚えたての幼齢だとか、善悪について微塵も知らない成長期であれば有用でしょう。
しかし彼らは少なくとも10年以上は生きています。
陽も沈みかけた頃に公園に集まり、ボールという道具を使い、集団で遊び、人や猫にぶつけることができます。
そこまでの事ができる子どもに、今さら何を注意して教えることができましょうか。
注意や勧告をしたところで、その言葉の意味を吟味せず、”不愉快な思いをした”という感情的部分のみがインプットされ、
猫たちに報復を企てる様が想像できてしまうのです。
世話をされている地域猫は、所謂他の野良猫に比べて人間への警戒心はいくらか弱くなっています。
それを逆手にとられ無辜の命が奪われることは避けなければなりません。
表題の『コドモコワイ』とはこういうことです。
そしてそんな彼らに何も言えない僕は、猫を人質にとられてすっかり怯懦になっているのです。



この看板が見えぬか! 読めぬか!
……と思うのですが、そもそもボールで遊ぶような子が読むハズがありませんでした。



もうひとつ、ゴミの問題も。
近くに駄菓子屋さんがあって、そこで買ったものをここで食べているようですね。
毎夕この有様ですが翌朝には綺麗になっています。
どなたかが善意で掃除してくださっているようです。
ちなみに僕は掃除はしません。
猫が誤って食べると危険な食べ物や、串などの危険物程度は片付けます。



公園に面した民家などは、何度か窓や外灯を壊されています。
現行犯で突き止めれば弁償させる勇気ある家主さんですが、たいていは事後発覚です。