健康番組の功罪

 健康番組というものがあります。
人間はたいてい長寿と健康を求めますから、需要に対する供給なのでしょう。
誰しも怪我や病気で苦しむより無病息災でいたいのです。
ですからその為にはいろいろと知識を蓄え、知恵を絞りたくもなります。
実際、ごく日常的な例では帰宅時にはうがいや手洗いをします。
目を使い過ぎたと思えば点眼薬を用いるし、寒さを感じたら温かい飲み物で一息つきます。
したがい僕自身も健康にはそれなりに留意しているハズなのですが、健康番組というものがどうにも苦手なのです。

 まず脅迫じみた構成から入るのがダメです。
『○○をすれば○○になる』という論調ならまだ頷けます。
帰宅時にうがいと手洗いをすると風邪に罹りにくい、とか。
これなら前向きですし、意識しようという気にもなるものです。
反対に『××しないと××になる』という流れは堪りません。
食物繊維を毎日これだけ摂取しないと癌になる、とか。
言っている内容は前者も後者も同じハズなのですが、” and ”と” or ”では印象が全く異なります。
この脅しのような導入から、ネガティヴな人は心を揺さぶられます。

 次に執拗な『△△健康法』
これがもう厭過ぎるのです。
「毎日、寝る前にチョコレートを一口食べる」
「毎朝3分、このような体操をする」
「3食のどれかに□□を取り入れる」等々。
どれもこれも簡単にできるのがなお腹立たしいのです。
体操とかはまだ許せます。何も消費しませんから。
困るのは食べ物や飲み物が絡むこと。
お茶が体に良いと取り上げられれば売り切れ、ココアが効くと言われれば店頭から姿を消し、
グミが健康を増進するとなれば販売数量に制限が加えられる……。
こうした番組に飛びつき、踊らされ、翻弄される方々に申し上げたいのです。
一体いつまでそれを繰り返すのか!
放送された直後~しばらくは売り切れが続きます。
ですが半年もしないうちにそのブームは去り、また新たな商品がターゲットになります。
健康に良いんじゃないんですか!? 毎日の生活に取り入れたいんじゃないんですか!?
なんで途中で止めちゃうんですか!? どうせなら続けるべきではないのですか!?
その商品がもともと好きな人もたくさんいるのですよ。
つまらないブームで売り切れになったら旧来のファンが困ってしまうのです。
しかもそんな気はないのに、僕までそのブームに乗って当該商品を求めているみたいになるのも嫌なのです。

 ダイエットはこれに輪をかけて酷いものです。
「毎日これを飲んでいたらこうなる!」等の謳い文句で何をやっているのかと思えば、
実施前に体重や胴囲を測定し、実施後にまた測定して効果が出た! と喜んでいるのです。
あのですねえ、そんなのは誤差かもしれないし実施による成果かどうか検証しようがないではないですか。
食べ放題で暴飲暴食した直後に測定し、翌日の同じ時間に測れば絶対に痩せてますよ。
被験者が検証中、24時間狭い部屋でじっとしていて検証に用いる飲み物なり食べ物なりを摂取して、
それで顕著な効果が出たならいくらか信憑性もありましょうが。
そもそも測定時の条件が同一でなければ数値にだって信頼がおけません。

 で、実は一番困るのはこれに踊らされる人が身内にいる場合です。
つい最近、生姜ココアなるものが体にいいと放送されたようです。
翌日、大量の生姜とココアが水屋の中にありました。
そして一日に2回、ほとんど無理やり飲まされているのであります。
拒むと「健康のためにいいのに」「体を心配して用意しているのに」「気持ちを分かってくれない」等々、
善意を盾に悪者にされてしまうのであります。
僕はココアは甘いものが飲みたいのですよ。
甘々益々旨し、なのです。
だいたい毒物でもない限り、飲食するたいていのものは体に良いんです。
栄養素が最も少ないとされるキュウリだって、体に悪影響を及ぼすことはないのです。
ひとつのものを信じ、縋り、それによって救われると想っている様は宗教にも近いのかな、等と考えたりします。
いっそ生姜ココア教でも作ればいいんじゃないでしょうか。