ちょうちょ

 虫が嫌いです。
ありんこさえ駄目です。
あの多節脚が蠢く様とか、全体的に黒っぽい塊が這うのを想像するだけで気持ち悪くなります。
にもかかわらず、この日の僕はなぜか昆虫館と看板が掲げられている店に足を向けていました。
理由は分かりません。
たんなる気まぐれかもしれません。
しかしもしかしたら不思議な力に引き寄せられたのかもしれません。
そこには無数の標本のようなものが並んでいました。
大小さまざまな木箱に収められているのはほとんどが蝶々、黄金虫、玉虫です。
茶色の地味なもの、文字通り玉虫色の光沢を放つもの、広げた翅がフクロウに見えるもの、
胴体の模様がドクロに見えるものなど……。
それはそれは虫嫌いには不気味なハズだったのです。
ところが僕は見つけてしまいました。




世界で一番美しいと言われる蝶、モルフォキプリスです。
輝きは構造色の成せる業ですが、光学的な理論などどうでもよくなってしまうほどの鮮やかさです。
見る角度によって、屋内屋外によって変わる光沢はあまりに複雑です。
店主さんは実際にこの蝶が飛んでいるのを見ているとのこと。
話によれば晴天では1キロメートル先で飛んでいてもキラリと光るので見つけられるそうです。
あまりの美しさにいつの間にか手に取り、気が付けば買っていました。
不思議なこともあるものですね。