あまいもの、おいしい

 食べてみたい、と思うものは山ほどあります。
この国にいれば大抵は手に入るので、その程度の欲求はすぐに叶えられましょうが、
そうした環境にあるからこそ”いつでもいいや”という思いが先立ち、却って手の届かない存在にもなりましょう。
と、小難しい導入はさておいて今回、食べたのはこれです。




素晴らしいですね。
甘いもの好きには堪らない一品です。
パフェだろうが和菓子だろうがおかまいなしに、それこそ一人で入店して注文もできる僕ですが、
女性と……となると途端に気恥ずかしさが生じてしまうものですね。
傍らにはベーコンとポテトの追加注文。
甘いだけでは飽きるから、合間に塩みのあるものも欲しくなるのでは、という同席者の案です。
その先見性に感銘を受けるのは数分後でした。
さて、この見た目とおりの山の、どこから食すべきかと迷います。
豪快に食べるのもよいですが、やはり見た目も大事。
食べかけが下品にならぬよう配慮せねばなりません。
ということで崩れないよう、頂から頂きます。
生クリーム自体はそこまで重くはありせんでした。
むしろ大の甘党には少し物足りない程度の、控えめな甘さ。
これは正解です。
全体の9割を占めるクリームが重厚だったら、きつと持ち帰り用の容器を取り出したことでしょう。
途中で飽きないようにと、このお店には様々なソースが置かれています。
チョコレート、はちみつ、メープルシロップ、いちごソース……。
「蜂蜜」より「はちみつ」と表記したほうが美味しそうに見えますね、何故でしょう?
色々と味を変えながら楽しんでいたのも束の間、残すは2割ほど――と迫ったところでフォークが止まりました。
お腹がいっぱいになったのです。
もう甘味は限界だと脳が電気信号を送ってきたのです。
こんなことは初めてなのです。
重くないと高をくくっていたクリームが、ここに来てトロイの木馬の如く胃壁を内側から突き上げようとしているのです。
ああ、これはマズイことになった。
戦時下の生まれでもないのに、飽食の時代の子なのに、食べ物を残すことはとてもイケナイことだと考えている僕には、
ここでフォークを置いて立ち去ることなどできはしません。
その時、視界に飛び込んできたのがあのベーコンとポテトです。
程よい塩辛さは干天の慈雨に同じ。
白米ばかり食べている最中の、末席を汚すことにさえ躊躇いを感じている風の、手塩皿に載せられたお漬物のように。
甘味によって麻痺させられていた味蕾に、新しい色を齎してくれたのです。
なんたる僥倖でありましょうか。
塩味に締められた味覚は再び甘味を欲しているではありませんか!
この乙張(めりはり)が僕の手にフォークを握らせ、残ったクリームと台を成していたパン生地を食させるのでありました。
スイーツをお腹いっぱいになるまで食べることができる。
贅沢と幸せを”味わった”、まことに有意義な時間でありました。