干支一回分の再会

 大型連休には色々と行ってみたい場所があったのですが、諸々の事情で遠出は叶わず、近場でお食事をしたり買い物をしたりとこじんまりとした休暇を過ごしました。
それだけでは不健康な気がしたので、近所の山を散策しようと思い立ち、連休最終日にお出かけしたのです。
が、いざ辿り着くと山よりもすぐそばにある母校に目が行きました。
既に小学校、中学校は統廃合により消滅していたので、残ったのは高校だけでした。
少子化の影響か、近々にはこの高校も別の学校を吸収するという噂を耳にしました。
フェンス越しに覗くとグラウンドがあるハズの場所に、港湾でしか見ないような大きなクレーンがあります。
ああ、いよいよか、と思うと12年来の母校に足を踏み入れたくなりました。
聞くところでは元々グラウンドがあった場所に新校舎を建て、現校舎を取り壊してグラウンドにするのだとか……。
わざわざ交換する意味が分かりませんが、事情があるのでしょう。

 大半の場所は施錠されているとはいえ、部活動が行われていることから敷地内に入ることはできました。
今にして思えば事前の連絡なしに入ったのは配慮に欠けていたかもしれません。
昨今の風潮からたとえ卒業者と雖も部外者に違いなく、もし挙動が不審であれば通報されても仕方がありません。
ところが敷地はおろか、開いている校舎にもすんなり入ることができました。
門戸が開かれているという意味ではよいでしょうが、守衛さんくらいはいても良さそうな気がします。
しばらく歩いておりますと、前から職員がやって来ました。
僕の品行が良かったからでしょう、怪訝な表情すらせずに挨拶を交わします。
……と、この方は見覚えがあります。
僕は商業科出身なのですが、その方は珠算を担当していた教員だつたのです。
当時はなぜか「ソロバンと言わずに珠算と言え」が口癖だったのをよく覚えています。
卒業生であることを説明すると、「顔を見てすぐに分かった」とのこと。
ありがたいことです。
在学時は学年でちょっとだけ有名だった僕なので、もしかしたら記憶に留めていてくださったのかもしれませんね。
開いている所は自由に見て構わない、とのことなので早速散策です。



懐かしや正門。
写真には写っていませんが手前には、
『至誠事に当たるべし 心身を剛健にせよ •世界は我が活動場なり』
という校訓が刻まれています。



歴史を感じる旧校舎。
神戸の学校は廊下、教室とも板張りでいわゆる上履きというものがありません。当然、土足です。
なので下駄箱も存在しません。
ラブレターや果たし状を渡すのに難儀したでしょう。
神戸っ子の僕はフィクションで学校に下駄箱が出てくるのが理解できませんでした。
ところで神戸の学校では「油引き」という板張り教室特有の、一大イベントがあります。
床のメンテナンスが目的なのですが、この行事では阿鼻叫喚が飛び交うことになります……。
ちなみに上履きがないのと同様、「日直」という言葉も存在しません。
神戸ではなぜか「日番」と呼ばれています。



吹奏楽部前の廊下にはこんなポスターが。
時代を感じますねえ。
時が時なら”けいおん”も貼られていたかもしれませんね。



教室は当時のまま。
ここで簿記や会計の基礎を叩きこまれました。
過去があって、今の自分がある。
不思議なものです。



当時の教職員の大半が去ってしまい、また校内も様変わりするということで、何とも寂しい想いがします。
世に常なるものはない、と言いますがもう少し残しておいてほしいと思うのは、それだけ思い入れが強いからでしょうか。