院に宿る

 言霊というものを僕はまあ、結構信じているのです。
これに限らずスピリチュアルな事柄も。
ですから最近はあまりテレビを観なくなりましたが、心霊映像特集だけは欠かさず視聴しています。
明らかな作り物が混じっていてもいいんです。
それを観るのが楽しいのです。
ただし心霊スポットに出向いて専門家と称する人が「ここに霊がいる。かなり怒っている」とか言うのはダメです。
あれは信用なりません。
スポットに行けば誰だって幽霊がいるであろうことくらいは分かりますし、それはつまり朝のおはよう、夜のおやすみなさい等と何の違いもないワケです。
今年に入って、こんなことを呟きました。
「入院してみたいなあ、病院食を食べてみたいなあ」
これまで一度も入院したことがありませんでした。
施術を要する疾病は何度かあったとしても日帰りばかりで、他の通院となにも変わらない感じでしたので。
入院生活というのに憧れていたのですね。病院食がどんなものか知りたかったのです。
で、何柱いらっしゃるのか分かりませんが我が国の神は、こういう呟きにばかり耳を傾けて願いを叶えてくれるのです。
タダで叶うのだから、もう初詣に参ってもお賽銭は差し上げないことにします。
(お賽銭といえば離れたところから投げ入れる人がいますが、あれは間違いです。そもそも参詣というのは――以下略)
何か月か前から約30日に一回の頻度で腰に鈍痛が走るようになりました。
どうせパソコンを使っている時の姿勢が悪いからだろうと思い込んでいましたが、どうも違うようです。
そこで泌尿器科を訪れたところ、しっかりと石が写っていたので、これが世に言う結石かと妙に感心しました。
(母がここ十年で3回ほどこれを作っていて、その時にお世話になった病院です)
先生は西日本屈指の名医と言われて、結石摘出のプロでした。
石の位置や大きさ等からESWL(体外からの衝撃波を用いた結石破壊施術)ではなく、TUL(尿管から管を通して破砕・摘出する方法)を用いることが決まりました。
ちなみに前者では日帰りまたは1泊入院、後者では最低でも2泊入院が必要。
神様はここでも僕の願いを最大限に叶えようと努力してくれたようです。
どうせならその努力、もっと切実な願いをしている人は大勢いるハズなのでそちらに向けてあげればどうでしょうか。
ともかくも念願の入院です。病院食も楽しみでした。
施術そのものは流石は名医。寝ている間に全てが終わっていました。
(体を”く”の字に折り曲げて腰に麻酔針が刺された痛みこそありましたが、その先の記憶はありません)
病室では申し訳ないくらい手厚い看護を受けました。
初日は丸一日、体を動かせないのですがその間にいろいろと世話をしてくださったようです。
二日目は自由に動き回れます。栄養士さんの監修によって作られた朝食は美味でした。
彩りも味付けも格別でした。量はやや物足りなく思いましたが、これは日常の摂取量が多いためでしょう。
僕のイメージでは病院食とは何の味もしない粗末なものだったのですが、これは直ちに覆されたワケです。
反面、入院生活は意外と辛いものでした。
排尿時に襲い来る尿道を刺すような痛みと、腰に橦木で撞かれたような鈍痛が走ります。
にも関わらず医療関係者は揃って、
「水をたくさん飲んでください。最低2Lは飲んでください、そしてたくさん排尿してください。じきに尿管の痛みは治まります」
と言われるのです。
もちろんこれは正しい処置で、術後はもちろん、平素の結石予防にも飲水というのは極めて効果的なのです。
ですが飲めば憚りが近くなり、そうなると……と、病室とご不浄の間に横たわるジレンマを何度も往復する羽目になりました。
(尿道のカテーテルは2日目に抜かれますが、ステントは留置されているので腰の痛みは長いこと続きます)

総括すると入院生活は悪くはありませんでした。
ただし排尿という不可避の生理現象のたびに痛みを伴うのは大きなマイナスポイント。
食事は美味で言うまでもなくバランスが良いので◎。
退院後、職場の机にどれほどの書類が堆積しているかを考えると気は沈みますが……。
次も同じ、この病院で入院したいですね。
今度はESWLで。

これが完治すれば次は緑内障の治療です……。