退職にいたる病2

 昨年末の時点でKが今年の2月に辞めるという話を聞いていました。
本人からではなく、本社の総務も兼ねているとどうしてもそういう話題が入ってきます。
嗚呼、やっぱりなあくらいにか思いませんでした。
どのみち長くはなかったろうと。
本人は僕には退職する直接の理由はとうとう言いませんでした。
なぜ言わなかったのか……いくつか推測できるのですが、当の理由は思わぬところで知ることになりました。

別の支店に集金に行った時です。
ここの事務員兼営業(男性)はこの会社に不釣合いなほどの高人格です。
僕が行くといつも熱々のお茶を出してくれます。
(初めて行った際に僕がお茶の好みについて話したのを憶えているらしく、いつも同じものが出てきます)
しかも相手の利き手に配慮してワンポイントを手前に持ってくるという徹底振り。
聞けばこの方、常に人を観察して癖や好みを見つけ、最良のもてなしをすることに注力しているとか。
允に尊敬すべき人物であります。
「Kの足にアザがあり、それが元で退職に至った」
と僕に打ち明けてくれました。



Kはその職場の連中数名に飲み会に誘われたそうです。
もちろんそこでも断りきれず、彼はずるずると連れられたとか。
アルコールの入った彼らは何やらゲームを始めました。
ゲームとはジャンケンをし、負けた者は罰ゲームを受けるというもの。
お金もかからず簡単な内容ですね。
さて、では負けた者が受ける罰とは?
これもまたお金をかけない方法です。
太腿へのローキック。
これだけです。



飲み会の後、Kの足は腫れ上がっていたそうです。
彼の親がそれを見つけた時、彼は最初、
「転んだだけ」
と誤魔化したのですが親の追及にとうとう真実を話したとの事。
ここまで聞けば退職の理由が見えてきます。
おそらくK本人の意思に加えて、両親も辞めさせたかったのではないでしょうか。
というのもこの数日後、Kの親が職場に電話をしたです。
何をやっているのか。息子を誘ってケガをさせたのは誰か。諸々を訊ねました。
(これは実は僕がKの親本人から聞きました。上の罰ゲームの話を聞いた直後です)
なぜこの話を高人格のこの人が知っているかの訊ねたところ、支店同士の長で密かにそういう話があったと。
自分もその長から聞いた、ということでした。
ところがこの話、本社の人間はおろか社長にも伝わっていませんでした。
支店の長とKの職場だけで情報交換はあったものの、それを役員たちが知らないという事実。
ジョックというのは明朗快活なイメージがありますが、現実にはねちっこく陰湿で責任逃れには知恵が働きます。
Kの親からも確認をとり、僕もKと同じ行動をとることを決めました。
退職です。
Kがいなくなれば連中の狙いは僕だけに注がれるし、そういう重大な事態を上層が知らずに済ませる体制。
前回の救急車騒動云々でも連中の人間性に嫌気が差していたので迷いはありませんでした。
大袈裟ではなく身の危険さえ感じています。
仮に僕が何らかの理由でこの世を去っても、彼らはシラを切り通すだろうなと。
(何らかの理由……種類としてはそう多くはないのですけどね)



 思い立ったが吉日。
僕はさっそく上司に辞意を伝えました。
Kに続き僕が辞めることで人材の配置に穴が空くでしょうが、知ったことではありません。
命あっての物種。
辞めたい理由は前記のとおり。
……が、2時間以上に及ぶ交渉でしたが、受理はされませんでした。
本社には僕が必要との事。
そう言われるのは大変にありがたいのですが、こちらは我が身も考えてのこと。
上司は僕を必要としていても、はたして会社としては僕を擁したいのか?
そうだとしてそれは上意下達がなされているのか。
上層の一部だけがそう考え、その下ではどれほど陰湿な出来事が起こっているか……。

『性欲に忠実で頭ではなく下半身でものを考えるような浅学菲才の沐猴が蔓延る会社になどいられるか!』

……という意味の訴えを遠まわしにしてみたのですが、遠まわしすぎて伝わらなかったかもしれません。
さて、会社の決算は5月末。
関係書類を提出する7月末まではせめていて欲しいと言われました。
これには僕も肯んじてしまったので何も言えません。
(なんでその期間までいると言ってしまったのか自分でも分かりません)
取りあえずもう半年は飼育員を続けなければならんわけですね。
ぜんっぜん懐かん沐猴ばっかりですが。
(この譬え方では本物の飼育員の方に失礼千万ですね)


これ書いてる時点でKはもういません。
この厳しい折、再就職はかなったのでしょうか。
彼が退職して以後、全く連絡をとっていません。
彼も会社と決別した今、まだそこに属している僕とは接点を持ちたくないのかもしれません。
(アプローチかけても反応ありませんから)
はてさてこの8月、僕はどうなっているのでしょうか。
90%以上の確率で辞めていると思いますが、嵐の大逆転はあるのでしょうか。




 それにしても少し前から話題に挙げている”知性”。
この会社のジョックは悉くそれが欠如しているなあと思いました。
なんで筆記試験の成績が7点なのに採用されてるんだよ……。
というようなのが数名いました。
配送業務なので車運転できて体力があれば誰でもいいのかどうか知りませんが、あまりに酷い。
業務内容に差があるのだから頭を使う分野、体を使う分野で適材適所はいいのですが、互いのテリトリーは守りたいなと思いましたね。