sushi

 お寿司が好きです。
カレーもラーメンも唐揚げも笊蕎麦も好きです。
どのジャンルにしても外食するとなると同じ店にばかり行きます。
たとえばカレーならこの店、ラーメンならあの店……という具合です。
美味しい店を見つけたら他を探そうとはしません。
保守的な僕の性格の表れといえましょう。

 お気に入りの寿司店があります。
凡百の……というほど他店を知らない僕ですが、きつとその店は他とはちょっと違います。
ネタの種類は一般的かと思います。
マグロあり、サーモンあり、イカあり、イクラあり――。
一度は聞いたことのある品書きです。
違うのは大きさです。
サイズか遠近感を間違ったのではないかと勘繰りたくなるほど一貫が大きいのです。



画像では分かりにくいですが、ネタは通常の4倍くらいあります。
お寿司というより、『ご飯の上に切り身が乗っている食べ物』と言ったほうがよいかもしれません。
大きなものだと一口では入りきりません。
ご飯の量はネタに対して少な目です。
それだけに身の厚み、歯ごたえ、食感を楽しむことができます。
また炙りやポン酢でいただくものもあり、舌に鼓を打たせること頻りです。
なお醤油は小皿に落として……という方法が使えないので刷毛に染み込ませた醤油を垂らすという手法がとられます。
このお店ではその大きさへのこだわりからか、四大作法なるものが存在します。


「巻き余ること巴の如し」
 アナゴの身がご飯を包んで巴の字のように見えます。

「積み重なること多宝塔の如く」
 ネタの上にさらにネタが乗る場合、塔のように高くなります。

「あふれ散ること落花の如し」
 イクラ等が海苔巻きをはみ出てこぼれ落ちる様は落花のようです。

「垂れ下がること振袖の如く」
 ご飯をすっかり覆い隠してしまうネタはまるで振袖です。


佳いですね。
雄大さと繊細さを感じます。


さて、ただ食べるだけでもよいのですが、僕としては板前さんとの会話も楽しみのひとつです。
食べたいだけならテーブル席に行くなり、出前を取るなりすればよいのです。
僕は決まって対面できるカウンター席に着きます。
板前さんと仲良くなると、いろいろと佳いことがあります。
お品書きにはないネタを出してくれたり、特別にネタを炙ってくれたり、ポン酢や塩をかけてくれたり……。
魚に関する知識を得ることもできます。
河豚皮のちらしを食した際には、養殖のトラフグは毒性が極めて弱いこと、天然のトラフグは餌となる貝やプランクトンの毒を
体内に溜め込むために毒性が強いことを教えていただきました。
通常、安価で出回っている魚の中には、名前こそ和名であるものの実際にはよく似た別の魚が紛れていること、
その組み合わせや見分け方を教授頂いた時には目から鱗が落ちたものです。

お寿司は美味しい、会話は有意義、知識は増える。
僕の月に一度の楽しみであります。