今月のましらさま

 僕は霊長類が嫌いなのかもしれません。
(もちろん僕自身を含めて)
およそ文化的とは思えない、人語を解しているハズなのに極めて狭小な範囲内の語句しか繰り返せない一種族。
分類上、自分も同じカテゴリーに属していることを心より嫌悪しております。
ここではお馴染みのジョック様です。
なんかもうFXとジョックの話しかしていないみたいですが、稀に違う話題もございます。

 会社でお片付けがありました。
仕事場は2階で、1階は多目的利用スペースなのですが実際は資材置き場状態になっています。
今回はそのスペースの大掃除のお話です。
計算書類等の古い資料やら内装工事に使うらしい大きな板やらが無造作に置かれていました。
で、その量があまりに多く、廃棄するにしても産廃用の車が要るという事で不本意ながら支店から応援が来ました。
いえいえ、応援といってもこちらが頼んだわけではありません。
そこの支店が説明会だか講習会だかで1階を使いたいので、わざわざ片付けに来る……というのが本来です。
従って単純に考えれば僕がわざわざ積み下ろしをする義理はないわけです。

『あんた方が勝手に使うのだから、セッティングもあんた方がやりなさいよ』

こう思うのですが何分僕は若手ですし、そこのビルで勤めているとあって片付けに駆り出されました。
おかげで大事な月次損益計算書の作成ができなくなったではないか、などと憤懣やるかたない想いではありましたが、
ニューロンシナプスもそう多くない支店の方々に申し上げても到底理解はいただけません。
さて、支店から男がやって参りました。
彼は営業ではなく配送ですので、体力は営業以上、インテリジェンスは営業未満であります。
体格もがっしりしていて頼りになりますね。
書類の詰まった箱を手際よく捌いていきます。
仕方がないので僕も手伝うことになりました。

「なんや、お前もやるんか?」

そうそう。
霊長類が嫌いだと言いましたが、もうひとつ、神戸もあまり好きではありません。
地元に対する愛が全く持てない反逆者なのです。
だって言葉が汚いんだもん。

「ええ、まあ一応、できるだけお手伝いします」

と、おずおず言ってみたところ、

「一応ってなんや? やるんやったらちゃんとやろうや」

……まあ、彼の言う事に間違いはありませんね。
ジョックが、”一応”とか”とりあえず”という言葉をやたら嫌うのを失念していた僕のミスです。
ちゃんと、と言っても僕は頭脳労働担当だからあなたが常とする相当程度の動きはできませんよ、
という意味をこの熟語に込めてみたのですが、我ながらあまりに婉曲だったと反省です。
ともあれ日がなPCや紙面に向かってばかりでは血流も悪くなりますから、こういうのも偶になら良いかもしれません。
偶に、ですけれどね。
作業は約2時間に及びました。
ここでちょっと休憩。
女性社員がコーヒーを淹れてくれました。
でも実はコーヒーは苦手です。
しかしいいですねえ。
僕が頼まれて重い荷物をカゴに積み、自転車で支店に運んだ時なんて誰ひとりとしてお茶なんて淹れてくれませんでしたよ。
っていうか頼んだ奴は悠然と隣の社員と笑談してましたから。
”そこに置いといてください”と顔も上げずに言われた時はそのまま持って帰ろうかと思いました。
……閑話休題
黙ってりゃいいのに、男が何かと僕に喋りかけてきます。
重労働したばかりなのに元気ですね、まったく。
吉田兼好先生の気持ちがよく分かります。
で、同じくよせばいいのに僕も適当に相槌を打つものだから向こうもそれに乗じてさらに無用の口舌を動かします。
疎んじられてることに気付けよ!
空気が読めないことをKYといいますが、相手の気を読めないことは何というのでしょうか。

「女作れよ」

何の脈絡もなく、彼はそう言ってきました。
いえいえ、確かその直前に趣味は何かと聞かれ、資産運用とか音楽鑑賞とか答えたような気がします。
で、”女は?”と問うてきたから、”特には……”と答えたかもしれません。
ジョックはなにかというと『女』を出します。
厳密には『女に』出してるんですけどね。
嗚呼、我ながら品のない低劣なジョークを……。
実は僕、”女”というぞんざいな言い方が嫌いです。
女性とか女の人とか、もうちょっとマシな言い方があるのですから。
実際、この支店の男どもと会話した記憶の中で、少なくとも5人は異性交遊を話題に出しました。
しかもうち4人が妻子持ち!
……お嫁さんに同情します。
彼らは”女”がいれば他には何もいらないのでしょうか。
生物は須く強い遺伝子を残すために常にパートナーを見つけるべく動くのが正しい在り方とは思います。
が、ジョックの言うそれは娯楽です。享楽です。
別にそれが悪いとは言いませんが、病的なくらいそれに拘るのはどうかと……。
というか語彙量が少なすぎます。
『女』『酒』『風俗』
彼らはどうもこの種のキーワードだけで会話を成り立たせているような気がします。
ああ、あと『パチスロ』というのもありました。
(車両積立取り崩さなければならないほど熱中している例もあります)
どうも連中は獣の皮を来て狩猟採集に明け暮れたあの頃から脳の発達が止まってしまっているようです。
使える単語量が妙に少ないのもそこに起因しているのかもしれません。
鍛え上げた筋肉とアルコールに対する強さは、厳しい生存競争の中において子孫を残すための
異性へのアピールポイントだったのです。

”野生的”という言葉が――1・とてもよくあてはまる
”理性的”という言葉が――5・まったくあてはまらない

アンケートとったらこんな結果になりそうです。


 人の好みはそれぞれですが、こういう輩と生活を一にしたがる女性の心理が僕にはまったく分かりません。
女性の方が男性よりも精神的に成熟しているハズなのに……。
恋は盲目、ということなのでしょうか?